フリーワンライ企画ログ、第6弾。エアティナ珍道中その2。
何て言うか、ペラいファンタジーで、軽率でお下品な感じの、頭の軽そうなノリの話にしたかったんです。
使用お題:『まだ決まっていない』『間違い』
(『牛乳はあっためて下さい』で落としたかった)
『イン・ザ・バー』
「オイ、奴じゃないのか……?」
安っぽいバーのカウンター席。隣の相棒に肘でどつかれ、男は指差された方へ視線を流した。男は賞金稼ぎ、隣に座るチビで太った相棒(主に情報収集担当だ。戦闘力はゼロに近い)と組んでいる。
「何かの間違いだろ。相手はイエナ国の特級戦犯、国府に立てこもって最後まで抵抗した連中の司令塔だって話じゃねえか。どんなアマが知らねぇが、とても女にゃ見えねぇゴリラに決まってらァ」
男が探している今回の賞金首は、ここから国を二つほど挟んだ先にある国の元軍人である。ほんの二、三年前まで内戦で真っ二つに割れていたその国は、革命軍が旧軍事政権に勝利する形で落ち着いた。その旧政府側の軍事的な旗印だった女将校――それが今回のターゲットだった。
示された先に立つのは、燃えるような赤い髪を結いあげ、白い肩を尖らせて歌う流しの女性シンガーだ。きつめに整った顔立ちに、美しい曲線美を描く肢体の若い女である。まさか、国が一家族が一生遊んで暮らせるだけの額を出して指名手配するような相手には見えない。剥き出しの肩と腕は確かに美しく引き締まっているが、とても悪辣な軍事政権の将校とは思えぬ、豊満で優美な身体の持ち主だった。
「あんな美人が相手なら、戦場じゃなくてベッドの上で一戦交えたいもんだね」
へっ、と笑って男は視線を逸らす。
「間違いだって、まだ決まったワケじゃないだろう。確かめる価値はあるって。俺の集めた情報から言えば、あの女はかなりクサいんだよ」
それでも食い下がる相棒に、しょうがねぇな、と男は立ち上がった。
エアカナ・グラーヌムは元軍人、現流しのシンガー兼賞金稼ぎといった所の、いわゆるヤクザな人間だった。今日も今日とて日銭を稼ぎに、ロクデナシしか居なさそうな小汚いバーで歌を歌う。別にへたくそなつもりも無いのだが、イマイチ仕事を選んでいられるような優雅な状況にならない日々だ。
「ちょっとティナー! 明日っからはアンタが何かやりなさいよー!」
野郎どもの下衆い視線に晒されながら、愛想笑いで歌うのも結構ストレスが溜まるのだ。一緒に旅をしている相方の女を捕まえて、仕事上がりのエアカナは文句を垂れた。先ほどまで歌っていたバーの片隅、エアカナは残り物のツマミを賄いに貰っている。
「オウ? 私昼間、働イてルヨ。夜オ前働く良いネ」
何を寝ぼけたことを、と言った風情で相棒の女、ティナが返した。ティナとは数か月前に別の国で知り合い、成り行きで一緒に旅をしている。彼女は褐色の肌に銀髪、翡翠色の眼を持つエキゾチックな美女で、南国出身らしく訛りまくった怪しい言葉を使う。張りのある褐色の肌を惜しげもなく晒す露出の多い格好で、幾重にも身に着けた金属の装身具を鳴らして踊る踊り子だ。
ティナはもっぱら昼間、大道芸をやっている。自前の小道具を操り舞い踊ることでおひねりを得ているのだ。たまに財布に余裕が無いとエアカナもそれに付き合わされる。
「あたしだって昼間も働いてるわよっ! アンタが文字読めないせいで、賞金首目録漁るのあたしの仕事になってんでしょーがっ!!」
日銭稼ぎの歌や踊りとは別に、彼女らは組んで賞金稼ぎもやっている。相手は犯罪者から特殊アイテム、魔獣や何やと呼ばれる相手まで様々だ。とかく腕力が金になれば良いのである。
「私夜働く嫌ヨ。野獣共危ナイネ」
夜に踊りはマズい、という意味は分かるが、この女が男どもにどうこうされるとは思えない。自称タダの踊り子だが、その腕っぷしというか凶悪さはエアカナの上を行くような相手だ。
けっ、と一つ舌打ちして、エアカナは手にしたコップの水を飲みほした。あまりグダグダ食い下がっても折れる相手ではない。諦め気味で皿の食べ物をかっ込み、エアカナは一つ伸びをして立ち上がる。舞台用の安っぽいドレスに入ったスリットから、太腿に巻き付けたホルスターがちらりと覗いた。入れているのは魔砲弾の入る拳銃だ。ちなみに反対の脚にはナイフが装備されている。
店員もほとんど引き上げて、人気の無い店内。既に食事は済ませていたティナが、エアカナに倣って立ち上がる。そこへ、便所の方から男が二人現れた。便器を抱いて酔い潰れていたにしては、随分としゃっきり立っている。その身に纏う雰囲気からして、どうやら同業者だとエアカナは舌打ちした。
「エア、オ前ドジ踏んだナ」
事態を察したティナが身構え小声で囁いた。エアカナは自身も賞金首だ。殆ど面が割れていないため、素知らぬふりでいるのだが、何処で気付かれたものだろうか。
「覚えは無いんだけどね……」
ティナだけに届くよう小さく返して、そっとスリットを指先でなぞる。ここで暴れれば、暫くは逃亡生活だろう。面倒臭い。
「オイ! 歌手の姉ちゃん。アンタ、イエナ国に知り合いは居ないかい?」
相手の片割れ、背が高く毛深い男がそう尋ねて来た。ザ・荒くれ者といった体躯の男は、腰にサーベルを下げている。
「生憎居ないわね。何? アッチに用があるの?」
そらっとぼけて答えてやる。引下がってくれると有り難いのだが。
「いやいや。お前さんに用があるんだよ。どうだい、今夜一戦交えるってのは」
下品な笑いと共に吐かれた台詞に、思いっ切り眉を顰める。生業柄仕方が無いが、親指を人差し指と中指の間から覗かせる、そのハンドサインは止めてほしい。
「そうね――。ココでなら悪く、ないわねっ!!」
言いざま拳銃を引き抜いて、男を狙って一発撃つ。しかし読まれていたのか躱された。突進してくる男が抜刀し、ぎらりとサーベルの刀身が間接照明の光を反射する。
装填されている弾は六発。無駄撃ちはしたくない。入っているのは炎の魔法弾だ。着弾した場所から炎が上がる。
「ティナ! 悪いけど消火ヨロ!!」
ハイヨー、とヤル気の無い返事を傍らに聞きながら、エアカナはハイヒールで床を蹴って横に躱す。同時にカウンター席の椅子に足を絡め、男めがけて蹴倒した。重心が低く重い椅子が、ころりと傾いで男へ向かう。サーベルが椅子を噛めば得物を失う。男は足を鈍らせサーベルを退いた。
隙の出来た男の脇腹を狙って、エアカナは銃を構える。
「そのモッサモサの毛深い体、熱処理脱毛で頭までツルッツルにしてやろうか!!」
別に一発で相手を焼肉に出来るほどの威力は無い。適当な啖呵を切ってエアカナは魔法弾をぶちかました。着弾と同時にぶわりと炎が広がって、男の身体を舐め尽くす。繰り返すようだがこけおどしの弾である。せいぜい毛先が縮れて終わりだ。脱毛には威力が足りない。
「うわっ……!!!」
目くらましに見事引っ掛かり、男が慌てた声を上げた。素早く銃を仕舞い、エアカナは男へ走り寄って天へ片脚を上げた。狙うはこめかみ。ハイヒールの硬い踵が宙に閃く。
ゴッ! と鈍く重い音が響き、男の上体が傾いだ。ドレスの裾を翻し、今度はナイフを抜く。男は昏倒には至らず、何とか踏み止まってサーベルを握りなおした。怒りに燃える眼がエアカナをねめつける。
「テんメェ……! ぶっ殺す!!」
ぶっ殺す、とは何とも個性の足りない台詞だ。
「はん、ソコはもうちょい下ネタで引っ張ってみなさいよ!」
はい。これ以上進まないうちに一週間経ちました。
あんまり引っ張っても仕方の無いものなので、諦めて晒します。
大 絶 賛、オ チ を 募 集 中 !!
誰か! 誰かこの話にオチをくれ!!! 下品に牛乳で落としてくれ!! ティナさんを活用してくれっ!!!
もし思い付いた方はご一報ください。
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