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てなわけで、何か悔しいので短編CUT TEXTを転載。
雰囲気で流してください(笑)
ツクヨミの内部は元々、アキツのテラフォーミング――惑星環境を地球に似せ、人間を含めた生命の居住が可能な状態にする為の基地として、長期間人々が暮らしていたスペースコロニーでもある。現在はそこに住んでいた人々の殆どがアキツに降りたため、大部分のエリアが空き地となっているが、その一部――地方自治体一つ分レベルの区画を丸々買い取って作られたのが「グレゴリー王国」なのだ。
「だから、ドール関係の『何の用件』かと聞いている」
「ちょ、ちょっとアサキさん!」
このマスターの脳内辞書に「配慮」とか「気遣い」といった類の単語は登録されていないに違いない。余りにミもフタも無い物言いを窘めつつ、サクはユリの様子を窺った。しかし意外な事に、ユリは決然とした表情で、アサキを正面から見詰めて言った。
「お願いです、ウチで……グレゴリー・パークで働いているドールを救ってください!」
祈るように両手を組んだ美少女の、切なる願い。
しかし、他に来客の気配がない店内には、居心地の悪い沈黙が降りた。
「…………何を言っているんだ、お前は」
どういう意味なのか理解出来ない、といった風情の主の反応。それを咄嗟に叱る事も出来ず、サクも困惑してユリを見遣った。こういった反応には、既に何回か遭っているのだろう。顔を俯けて悔しげに唇を噛んだユリは、絞り出すように言った。
「だって、ドールにだって心はあるんでしょう? あんな、あんな辛そうな彼を……でも、私一人じゃ何も出来ないんです、何も……」
「辛そうって……でもそのドールは、パークの所有ドールなんでしょう? だったらそれは――」
勘違いの気のせいか、あるいはそういう仕様なだけだ。世の中、憂いを帯びた瞳に惹かれる人間も結構いる。
「お前が何を勘違いしとるのかは知らんが、心があっても所詮AHMは『モノ』だ。モノに宿るのはモノの心でしかない。人間であるお前の基準に照らしてその心中を探るのは不毛というものだろう――なあ?」
珍しく、子供を諭すような幾分優しい声音でアサキが言った。無論、最後の確認はサクに向けてのものである。開け広げに同意する事も出来ず、「はあ」と「まあ」が入り混じったような曖昧な返事をサクは返した。
実はまだ、目の前の少女はサクの事を、ドールだとは思っていないはずなのだ。
サクは、容姿性格は平々凡々としている代わりに、非常に「リアル」に出来ている。おなじAHM――アンドロイド(人間もどき)と言っても、そのランクによって機能もリアルさも変わってくる。その中で、サクはアサキに言わせると「無駄に高機能」なのだ。もっとも、この妙な特殊さを気に入られて、「パーツ狂」とのあだ名を持つこのマスターに、パーツ分解されずに済んだのだからサクとしては己の高機能に感謝するしかない。
そんなサクは、普通にしていればまずドールと見破られる事はない。さらには、アサキはサクに「人間を演じていろ」と命令しているものだから、人様に電源ケーブルを見られまいと焦る事になるのである。そんな命令をしておいて、その命令に矛盾するような状況を自分で作らないで欲しい、というのがサクの本音だった。
「基本的に、ドールにとってマスターの命令は絶対だ。『絶対』というのは、『逆らえない』という意味じゃない。『逆らうという発想そのものが存在しない』あるいは、『その命令を完遂する事が、至上の幸福である』ということだ。……その辺りは良く勘違いする者もいるが、ドールの心そのものが、マスターの命令を遂行する事そのものを喜びとするように作られているんだからな」
こんなノリの話。
相変わらずな感じのLLテイストですw
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